ファッション業界への冒涜

今朝ツイッターで「ランウェイで笑って」という異色の少年漫画がテレビアニメ化するというトレンド記事を見つけた。

内容は158cmの女子高生がパリコレモデルを目指しトップモデルになるまでと同級生の男子がファッションデザイナーになるまでを描くというサクセスストーリーらしい。

 

私は既に違う世界にいるが、ファッション業界に少しだけ携わっていたことがあったため、少しこの話題に興味が湧いてとりあえず1巻と2巻を読むことにしてみたのだが……

 

1巻は疑問を感じつつも苛々しながらも何とか読了できた。

2巻も一応読了した。

が、2巻は憤りを必死で抑えながら読了した。

 

日本人の158cmの女子高生がスーパーモデルを目指す時点でそもそも無謀なことであり現実味はまるでないのだか、論点はそこではない。

ファッション業界のことをあまりにも知らなすぎる内容であるのに、さも知識があるかのような内容で話が進んで行ったからだ。

 

ここからはネタバレを含む&この作品について全く褒めることはので、ファンやこれから読んでみたい人は読まないでほしい。

 

2巻目で新進気鋭のファッションデザイナー柳田という男の東京コレクションで出演予定のモデルが来られなくなり、急遽ヒロインが代わりにランウェイを歩くという展開になる。

元々着る予定だったモデルサイズ(スーパーモデルの身長は平均173〜180cm)で作られた衣装が158cmのヒロインが到底着こなせるはずがなく、お直しすることに。

だが柳田のパタンナー兼お針子?のリーダーの女が直しの最中に過労で倒れる。どうする?となった時に柳田が「俺はデザイン専門だ。服は縫えない」と一言。

そこでデザイナー志望の男の子が僕が直す!といきなりしゃしゃり出てなぜか柳田はGOサインを出す。

そしてギリギリでヒロインに合うデザインの服に直してランウェイを歩くという展開だった。

 

 

まず疑問なのは、柳田が服が縫えないということである。

デザイナーが縫えないということは基本的にはありえない。

ファッションデザイナーになるには基本的にはファッション関連の賞をとるしかない。(装苑賞など)

賞をとるためには一次はデザイン審査、二次は実際に制作しモデルに着せてショー形式で審査員に見せる審査がある。

この時作るのはデザイナー自身だ。

デザインするというのは、ある程度服の知識がなければ出来ないことは馬鹿でもわかる。

デザインは出来るが服が縫えない=服の構造がわからないなんてことは絶対にない。

例えるなら一流のサッカー技術を持っているがルールがわからないといった状態だ。

ただ、難解なデザインになれば優秀なパタンナーが必要になってくるのは確かだが、それでも服が全く縫えないということは絶対にあり得ない。(思い返せば柳田は一巻で星止めという縫製方法のことでキレているので矛盾が生じている)

そして何より驚くのが、自分のコレクションの、しかも大トリを飾る衣装をまだ右も左もわからない、ただデザイナー志望というだけの高校生男子に丸投げという展開だ。

 

デザイナーにとってコレクションは自身の集大成であり、自身の伝えたい思いや願いが込められた命に等しいものである。

もし私がデザイナーの立場であり、こういった事態はまずあり得ないが万が一なった場合、大トリの前の衣装どれかをカットするかコレクション自体を途中で中断して後日個別でショーを行う。

 

コレクションにはストーリー性がありショーは総合芸術であると私は思う。

気になる場合はパリコレやミラノコレクションの動画がYouTubeで大量にあるから見てほしい。特にオートクチュールコレクションは最後にマリエ(ウェディングドレス)で終わるのでわかりやすいと思う。

音楽に合わせて服の雰囲気が変わり、そして最後の衣装で華々しく幕を閉じる。

自分の命を削って作り上げた物語を最後の最後で他人に丸投げするという展開はあまりにもデザイナーを馬鹿にし過ぎている。

漫画で言えばワンピースの最終回を全くよく分からない新人アシスタントに「君は才能ありそうだから描いておいてね!」と頼むようなものだ。

自分の我が子のように愛しい、あるいは自分の身体の大切な一部をよくわからない他人に任せるなんて常軌を逸しているのか、何もかもどうでも良いと思っているようにしか思えない。

ヒロインとデザイナー志望の男の子を引き立たせたいがための展開ではあるが、あまりにもファッションの世界を冒涜しすぎていると私は思う。

 

そして漫画だから譲歩する部分もいくらかあるが、ファッション業界は努力が必ず報われるような、弱くてダメな主人公が成長してスーパーヒーローになるような少年漫画とは対極にある。

 

ファッション業界では努力しても報われないことのほうが圧倒的に多い。

どの世界でも言えることだが、努力するのは当たり前、プロになる人達は努力プラス才能が備わっているのである。

特にファッション業界ではそれが顕著に表れる。

才能のない人間は人間として扱われない、存在していることすら許されないような世界だ。

エグいぐらい才能のある人間とない人間の差を見せつけられる現実世界を少年誌で取り扱うのは失敗ではないかと思う。

 

まるで現実味がないおとぎ話として、全てがフィクションだと思って読むだけであれば楽しいだろう。ただ、フィクションならフィクションらしく付け焼き刃のような知識をひけらかさないでほしいと思う。

日本では漫画やアニメの影響力は絶大であると私は思う。もしこの漫画やアニメを見てファッションを間違って捉えられることがあるとすれば本当に冒涜以外の何者でもない。

 

たかが漫画、されど漫画。

もしファッションやクリエイティブな世界を垣間見たいと思うのであれば、個人的には「左ききのエレン」をお勧めしたい。

あれぐらい深く作品と向き合っていなければ芸術を漫画にしないでほしいというのが私の個人的な願いでもある。